源泉徴収と聞くと、会社員を経験した人であれば、1年に1度会社から渡される源泉徴収票を思い浮かべるのではないでしょうか。
ですが実際のところ、「税金が給料から天引きされている」という認識で、詳しい仕組みを把握していない人が多いです。
今回は「源泉徴収の基礎的な知識と注意すべきこと」を紹介していきます。
源泉徴収に対する知識を深め、信頼性の高いフリーランスを目指しましょう。
目次
フリーランスが知っておくべき源泉徴収の基礎知識
源泉徴収の仕組みを理解するのは、フリーランスにとって必要不可欠と言っても過言ではありません。
源泉徴収に対する知識が乏しいままでは、思いもしないトラブルを招いてしまったり、損をしてしまったりすることも考えられます。
まずはしっかりと源泉徴収の仕組みを理解しましょう。
源泉徴収の仕組み
源泉徴収とは、一言でいうと「給与支払者が納税を代行する仕組み」です。
日本では、個人が自分の収入を国に申告する「申告納税方式」をとっています。
ですが、すべての国民が自分で税務署に申告すると、どうなるでしょうか。
すべての手続きをするのに、膨大な時間と手間が掛かってしまい現実的ではありません。
また、すべての国民が税金について正しい知識をもつことは不可能に近いです。
他にも、所得税の申告漏れや払いすぎの問題などが、頻繁に起こることが予想されます。
国としても、安定して税金を確保するために、源泉徴収の仕組みを導入しているのです。
源泉徴収の対象となる報酬一覧
フリーランスに支払われる報酬のすべてが、源泉徴収されるわけではありません。
国税庁のホームページを見ると、以下の項目が源泉徴収の対象となっています。
給料や賞与以外にも対象となっており、ついつい見落としがちなので注意が必要です。
自分に支払われた報酬と照らし合わせ、しっかりとチェックするようにしましょう。
- 原稿料や講演料など
- デザイン料
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬}
- プロ野球選手をはじめとするプロスポーツ選手に支払う報酬
- モデルや外交員などに支払う報酬
- ホテルや旅館などの宴会で、接待を行うホステスやコンパニオンに支払う報酬
- プロ野球選手の契約金など、役務の提供に対して一時的に支払われる報酬
- 広告宣伝のための賞金や馬主が受け取る競馬の賞金
デザイン料について
デザイン料と言われても、実際にどんなものがデザイン料に該当するのか分かりづらいですよね。
国税庁のホームページには、具体的に以下のように記載されています。
- 工業デザイン(自動車、オートバイ、テレビジョン受像機、工作機械、カメラ、家具等のデザイン及び織物に関するデザイン)
- クラフトデザイン(茶わん、灰皿、テーブルマットのようないわゆる雑貨のデザイン)
- グラフィックデザイン(広告、ポスター、包装紙等のデザイン)
- パッケージデザイン(化粧品、薬品、食料品等の容器のデザイン)
- 広告デザイン(ネオンサイン、イルミネーション、広告塔等のデザイン)
- インテリアデザイン(航空機、列車、船舶の客室等の内部装飾、その他の室内装飾)
- ディスプレイ(ショウウインドー、陳列棚、商品展示会場等の展示装飾)
- 服飾デザイン(衣服、装身具等のデザイン)
- ゴルフ場、庭園、遊園地等のデザイン
ここに記載はありませんが、Webデザインもデザイン料に含まれるので注意しましょう。
またWebサイトの制作はデザイン業のように感じますが、作業内容によってはデザイン料に当たらない場合があります。
たとえば、プログラミングやコーディングなどは、デザイン料に含まれないのです。
源泉徴収の計算方法
源泉徴収金額は、支払う報酬額によって変わります。
支払金額が100万円以下であれば、支払金額に10.21%をかけたものが徴収金額です。
たとえば、支払い金額が50万円の場合は以下の通りです。
- 500,000円 × 0.1021 = 51,050円
また、100万円を越えた分には20.42%の税率がかかります。
たとえば、支払金額が300万円であれば以下の通りです。
- 1,000,000円 × 0.1021 + (3,000,000円 – 1,000,000円) × 0.2042
=102,100円 + 408,400円
=510,500円
※税率には、東日本大震災の復興支援として復興支援特別所得税が含まれています。
フリーランスが源泉徴収されるときの豆知識と注意点
源泉徴収に慣れていない人にとって、ついつい見落としがちな注意点があります。
知らないままでは、損をしてしまうこともありうるので、以下の点に気を付けましょう。
- 二重に税金を払ってしまう可能性がある
- 還付申告は過去5年間までさかのぼれる
- 請求書を作るときは消費税を分ける
- 支払調書と源泉徴収票は違うので注意が必要
- 源泉徴収票を紛失しても再発行できる
その1:二重に税金を払ってしまう可能性がある
クライアントが源泉徴収税を納めていた場合、確定申告をするときに源泉徴収分を差し引かないと、税金の二重払いになるので注意しましょう。
クライアントには源泉徴収をする義務があります。
ですが、源泉徴収票を発行する義務はありません。
そのため実際には源泉徴収をされているのに、源泉徴収票が送られてこないこともあるのです。
もし源泉徴収分がいくらか分からないのであれば、クライアントに問い合わせるようにしましょう。
その2:更生請求は過去5年間までさかのぼれる
納め過ぎた税金は、申請をすれば返ってきます。
こちらの請求期間は過去5年までさかのぼって更生することが可能です。
その際には、税務署に以下の書類を提出する必要があります。
- 源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額還付請求書
- 誤りが生じた事実を記載した帳簿書類の写し
このような面倒な作業をすることにならないよう、確定申告をするときは、しっかりと源泉徴収分を計算するようにしましょう。
その3:請求書を作るときは消費税を分ける
請求書をクライアントに発行するときは、消費税の取り扱いに注意しましょう。
源泉徴収の対象となるのは、消費税を含む支払ったすべての金額になります。
ですが、請求書の時点で内税として報酬額を記載せず、外税とした場合は消費税は源泉徴収の対象にはなりません。
◎例
- 内税として報酬54,000円と記載したとき
54,000円 × 0.1021 = 5,513円 - 外税として報酬50,000円と記載したとき
50,000円 × 0.1021 =5,105円
以上のように約400円の差が生まれました。
「数百円の差でしかない」と侮ってはいけません。
塵も積もれば山となります。
損をしてしまわないよう、請求書の作成方法には注意しましょう。
その5:源泉徴収票を紛失しても再発行できる
もし源泉徴収票をなくしてしまっても、発行元に申請すれば原則的には再発行をしてもらえます。
ですが会社の倒産など、なんらかの事情で拒否をされてしまう可能性もゼロではありません。
そのような場合は、税務署に相談しましょう。
「源泉徴収票の不交付の届出書」という書類を提出することで、税務署から会社に源泉徴収票を再発行するよう指導をしてもらうことが可能です。
フリーランスが源泉徴収をする側になる場合
会社員を経験していると、源泉徴収は「されるものである」というイメージがあるのではないでしょうか。
ですが、フリーランスの場合は、自分が源泉徴収をする側に回ることもあるのです。
たとえば、Webサイトを制作する際、イラストを外注する場合があります。
この場合、外注先に対してデザイン料として、源泉徴収をする義務が発生するのです。
源泉徴収義務者とは
一言でいえば、「給料を支払う人」を指します。
フリーランスであれば、「個人事業の開業等届出書」を提出すると源泉徴収義務者となり、源泉徴収をする必要が出てくるのです。
ですが、以下の2点に当てはまらない場合は、源泉徴収をする必要はありません。
- 常に2人以下のお手伝いさんのような従業員に給料を支払っている場合
- 給料や退職金の支払いをせず、弁護士報酬などの料金のみを支払っている人
※2は、確定申告などのするために税理士に支払った報酬などを指します。
源泉徴収税の納付方法
源泉徴収税は、給与や報酬を支払った月の翌月10日にまでに、税務署に納付することになります。
ですが、以下については特例として、半年分をまとめて一度に納付することが可能です。
- 給与や退職金から源泉徴収をした所得税および復興特別所得税
- 税理士、弁護士、司法書士などなどの一定の報酬から源泉徴収をした所得税および復興特別所得税
つまりライターやデザイン業などに報酬を支払う場合は、翌月までに納付する必要があるので注意しましょう。
この特例を受けるには、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」を税務署に提出し、承認を受ける必要があります。
特例を受ける条件は、給与を支払う対象が10人未満の場合に限ります。
もし事業が大きくなり、給与を支払う対象が10人以上になる場合は、特例を受ける条件から外れてしまうの気を付けましょう。
そのような場合、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなった場合の届出」を税務署に提出する必要があります。
仮に提出を怠ると、不納付加算税や延滞税が掛かってしまう場合があるので注意しましょう。
源泉徴収をするときの注意点
源泉徴収をするとき、見落としがちなのが以下の2点です。
- 金銭以外の物品で支払った場合も源泉徴収の対象となる。
- 報酬や料金としてではなく、取材費や交通費などの名目で支払ったものも源泉徴収の対象となる。
源泉徴収した分は、しっかりと納めないと脱税となってしまうので注意しましょう。
フリーランスに源泉徴収の知識は必要不可欠
源泉徴収に関する知識は複雑です。
もちろん、すべてを理解する必要はありません。
ですが、自分の事業に関する範囲については、理解しておくことは必要不可欠です。
どの案件が源泉徴収されるものなのかを、しっかりと判断し、正しい納税額を計算するようにしましょう。